コンプライアンスとは何か?

コンプライアンスという言葉をはじめて聴かれる方も、既に基本的なところをご理解されていらっしゃる方もいらっしゃることでしょう。

ここでは、コンプライアンスに関係する言葉の意味と目的をご理解若しくは再認識していただくと同時に、企業を取り巻く不祥事を防止するための様々な取り組みの全体像を把握していただきたいと考えております。

これにより、実際にコンプライアンス体制の構築のために何をしなければいけないか大枠をご理解いただけるのではないでしょうか。

取り組みとしては、ここに挙げているような、日本語では企業統治と訳されておりますコーポレート・ガバナンスや内部統制、リスク・マネジメント、内部監査、そして、コンプライアンスといったものがあります。

ここでは、これらの定義や背景と同時に、それらの関係についてご説明しましょう。

主な取組み

1.コーポレート・ガバナンス
2.内部統制
3.リスク・マネジメント
4.内部監査
5.コンプライアンス

取組み全体について

取組みとその関係

太線で囲まれた楕円の内部を企業と考えてください。

従って、その外側の楕円内に記載されたものは、企業を取り巻くステークホルダーを意味します。

まず、企業とは株主から出資された資金を元に事業を行っており、経営者は株主から委託されて経営を行っています。従って、経営者は受託者として誠実に経営に当ることが期待されていると同時に、その企業を取り巻くステークホルダー間の利益を調整する立場にもあります。

しかしながら、経営者が企業目的や経営理念にそぐわない行動をとったり、問題が発生した時に自己の保身を図り問題を隠蔽したりする恐れがあります。

このような懸念に対して、適切な経営が行われているどうかを、株主はじめ第三者が監視、監督、検証する制度が設けられており、これを、コーポレート・ガバナンスといいます。

従って、コーポレート・ガバナンスというのは、経営者とステークホルダーとの関係に直目した取り組みであるといえます。

一方、法令等の遵守や業務の適正な執行は受託者としての義務でもありますので、経営者には内部統制の仕組み、つまり内部統制システムを構築する義務が課されています。

従って、内部統制は、経営者がどのように企業内部を運営していくかということが中心となります。

リスクマネージメントも内部統制と同様、経営者が企業内部を運営していくための仕組みであり、企業経営をリスクという視点からみたものです。リスク・マネジメントと内部統制は、それぞれ別の経緯をたどって発展してきたものですが、これらは、独立して存在するのではなく、一体となって運用されるべきと現在では考えられるようになってきています。

最後に、内部監査ですが、これは、内部統制及びリスク・マネジメントが適切且つ有効に機能し、その目的が達成されているかを検証していくプロセスであり、内部統制及びリスク・マネジメントを構成する重要な要素の一部という関係にあります。

コーポレート・ガバナンスと内部統制

コーポレート・ガバナンスというのは、「企業を健全に運営するための仕組み」を構築することですが、そのために不可欠な要素は何かというと、ここに上げた3つがその重要な要素にあたります。

ガバナンスと内部統制


皆さんよくご存知だとは思いますが、各々を簡単にご説明しますと・・・・・

まずは、経営戦略、事業見通し及び業績を適切にディスクロージャーすることを意味する経営の透明性

それから、企業価値を最大化することを考慮して経営に当たっていることを十分に説明することを意味するアカウンタビリティつまり説明責任

最後は、経営戦略の実行と企業目的の達成を可能とする企業の組織構造、管理体制を構築し、統括することを意味する経営コントロールです。

ここで、先ほどの説明とは少し違うお感じになったかたもいらっしゃると思います。

コーポレート・ガバナンスというのは、ステークホルダーという外部向けの仕組みのはずでしたが、その中には、企業の内部を統括する要素がしっかり組み込まれたものなんです。

これが、経営コントロールですが、これを独自に体系化したものが内部統制システムというものになります。

つまり、コーポレート・ガバナンスというのは、ステークホルダー向けの「経営の透明性」と「アカウンタビリティ」という二つの要素と内部統制システムという企業価値を高めるための企業内に目を向けた構成要素の三つから構成されているということです。

ここでいう内部統制システムというのは、経営管理のための仕組み、体系をさします。
つまり、内部統制若しくは内部統制システムは、コーポレート・ガバナンスの一要素という関係にあるということです。



 コンプライアンスの本質と求められる背景

コンプライアンスと他の取組みとの関係を理解できましたか?

でも、コンプライアンスそのものについては、あまり深くは触れてきませんでしたので、ここからは、コンプライアンスそのものについての理解を深めてください。

コンプライアンスの本質

コンプライアンスとは、いったい何を遵守すべきものなのでしょうか?

内部統制のところで既にご説明したように、内部統制の目的の一つが「法令関係の遵守」ですので、内部統制の目的の一つがコンプライアンスといえます。

ところが、企業が法規制を守ることは当然ですので、「コンプライアンス=法令遵守」ととらえたところで、何ら新たな意義や何かを始める契機にもなりません。

更には、「法令に抵触しないようにいかに上手く業務をやるか」という本末転倒した意見を持った経営者も現れているようです。確かに、発展途上国やかつての高度成長期、バブル時代では、そういう経営者は多くいましたしが、今やそういう時代ではありません。これは、現代社会が企業に求めている方向性とは逆です。

コンプライアンスの本質

そこで、コンプライアンスに実質的、本質的な意味を持たせるためには、企業の存続・成長の本質に立ち返って、コンプライアンスを、企業の経営理念やそれを具体化した倫理綱領と理解すべきではないかという考え方が生まれ、コンプライアンスを経営方針の一つと考えるところもでてきています。

つまり、コンプライアンスとは、一言で言うと、『倫理・法令遵守』となります。

もう少し分かりやすくいうと、コンプライアンスとは、『法令を遵守しつつ、社会からの要請に応えること』または『企業独自の経営理念や企業倫理を社内に浸透させ、これを遵守させるための諸活動』と理解していただければいいと思います。

コンプライアンスが求められる背景

ところで、近年になって、年々コンプライアンス重視の経営が求められるようになってきているわけですが、その背景を見てみると、ここに上げるような4つの大きな要因があります。

求められる背景

経営トップの暴走や極端な利益至上主義、コンプライアンスや不祥事防止に対する認識の欠如、内向き指向の蔓延などによる不祥事の多発や、ここに掲げる原因による内部告発の増加が挙げられます。また、大幅な規制緩和や企業に対する選別・評価の動きが銘柄の選定に大きく影響を与えています。

これが、コンプライアンス重視の経営が求められる背景です。

また、コンプライアンス経営による利点も求められる要因として見過ごすことはできません。

例えば、以下のような利点があげられます。

・消費者・市場からの誠実な企業としての高い評価
・不祥事やそれに伴う損失の予防
・統制システムとして不祥事発生の未然防止
・投資家による経営者に対する責任追及(訴訟等)のリスク低減
・取締役が善管注意義務・忠実義務を果たしていることの証明

その他、役職員の意識改革や従業員の意識に対するポジティブな影響を与え、やる気を引き出し、より創造的・生産的な仕事が期待できるようになります。

更に、強い連帯感と企業目標を達成しようという意欲により、「良い企業」から「偉大な企業」へと飛躍することも夢ではありません。

地方にいくと、よく耳にする言葉があります。

「あの企業に入れたら最高なんだけど。何故って、いい企業だから」

世界的な企業になってくると・・・「この地域の名物は? 自慢は?」と訊くと、

「●●株式会社ですよ」

と尊敬される人物のように自慢の種になっていたりします。

倫理的価値観を維持し、自社の文化へと昇華する取組みは、高い尊敬を集める偉大な企業として成功を収めるために不可欠な要素となります。

では、企業が高い評価を得るようになるためには、コンプライアンス体制作りはどうあるべきかというと、まず、経営者主導で行われるべきものであるということです。

その理由は、コンプライアンスは、経営理念の実践とそれに不可欠な倫理的行動をもとめるものであり、自社の経営理念や経営者の姿勢・哲学を社内に浸透させる営みだからです。

よって、コンプライアンスの徹底は、経営者の最も重要な仕事であり、経営陣がリーダーシップを発揮してトップダウンで行うべきものなのです。

また、経営者には、コンプライアンス経営の理念を企業文化として根付かせる使命があるといえます。

では、いよいよコンプライアンス体制構築にはいりますが、最初に全体の流れを理解してください。

基本的な流れは、ここに示すとおりです。

1.組織などの体制の整備の実施
    ↓
2.方針や規定の策定
    ↓
3.監視体制の整備

コンプライアンス体制の構築

 コンプライアンス体制の整備

ここでは、コンプライアンス体制構築に必要な事項についてご説明します。

『コンプライアンスの本質』のところでもご説明したように、コンプライアンスは、単なる法令遵守だけではありません。企業の経営理念や倫理規定を全社員に浸透させるという経営者にとって最も重要な仕事の一つです。

従って、コンプライアンス体制構築を、経営者が率先して行う必要があります

中小企業においては、コンプライアンス体制構築といっても、コンプライアンス関係の仕事を専任で行えるような人的余裕がないのが普通です。従いまして、通常の業務と兼任するケースが多くなると考えられます。

【取締役会又はコンプライアンス委員会】

取締役会若しくはコンプライアンス委員会は、コンプライアンスに関する最終的な責任をもつのはもちろんのこと、メンバー全員には、コンプライアンスに関する十分な理解が求められます。

従いまして、経営者全員には、幹部向けの研修プログラムを定期的に受講していただく必要がありますし、経営者として定期的、若しくは不定期にコンプライアンスに関する事項の決定や承認等の責務を行うための会議の開催やコンプライアンス委員会の設置を行う必要があります。

【コンプライアンス統括部門】

次は、コンプライアンスを実践する部門としてコンプライアンス統括部門の整備をおこないます。

この部門では、法令違反や不祥事などを含むあらゆる情報の一元管理を行うとともに、関係部署と連携しながら、全社員にコンプライアンス意識の浸透を図る上で中心的な役割を担っています。

従って、コンプライアンス部門は、他の業務執行部門からの独立性が保たれなければなりません。ところが、日本の多くの企業では、マネージメントレベルのコンプライアンスへの理解不足とともに人的資源の不足、予算の問題などにより、総務や法務部門が兼任することが多いようです。

とはいえ、コンプライアンスに要する費用と効果のバランスを無視することはできませんので、あくまでも、ケースバイケースで対応する必要があります。

ところで、コンプライアンス統括部門は、収益部門と管理部門において問題がないかどうかをモニタリングする役割を担っていますので、コンプライアンスに関する十分な情報を得るための権限を付与されていることが必要です。

よって、コンプライアンス統括部門に配属された人たちは、いろいろな業務に精通した人たちですので、入社したばかりの新人だけではつとまりません。やはり、ベテランの社員を中心とした組織となります。

また、コンプライアンス統括部門には、自社のコンプライアンス体制の整備を推進するリーダーとなるコンプライアンス・オフィサーが必要です。

コンプライアンス・オフィサーは、コンプライアンス統括部門の責任者として、体制の整備だけでなく、不祥事への対応、研修等の実施、組織が自社の経営理念や倫理綱領を遵守しているかどうかを、独立した立場でチェックする役割を担っておりますので、それらの責務を果たせる上級管理職の選任をおこないます。

コンプライアンス方針・規定及びマニュアル作成・実践計画

組織が出来たところで、次に行わなければいけないものに、経営理念や経営者の経営哲学に基づいたコンプライアンスに関する社内規定や行動指針の整備を行う必要があります。

【コンプライアンス・マニュアルの作成】

つまり、コンプライアンスに関するマニュアルの作成です。また、コンプライアンス・マニュアルの中には、経営理念として掲げた目標から全社員が共有すべき基本的な価値観や倫理規定を抽出した倫理綱領の作成も含まれます。

しかしながら、コンプライアンス・マニュアルは、単にコンプライアンス実現のための手引書としてだけでなく、他の文書との関連など組織内での位置づけをはっきりさせ、更に全従業員への周知徹底させることがより重要となります。

画像の説明

 【コンプライアンス・プログラムの策定】

次に行うべきこととして、コンプライアンスに関する規定の整備、内部統制の実現計画、従業員への研修計画など、コンプライアンスを実現するための具体的な手続規定の整備やフォローアップなど実践計画の策定が欠かせません。

例えば、コンプライアンス・プログラムの見直し期間の設定、担当部門の責任の明確化、進捗状況や達成状況の把握、従業員に対する正当な評価などが上げられます。

コンプライアンス監視体制の整備

コンプライアンス実現においては、コンプライアンスに関する情報の収集および一元管理を徹底する必要があります。

何故ならば、コンプライアンスに関する情報は非常に広範囲に及ぶため、把握すべき情報の漏れを防ぐとともに、関連する職員への周知徹底を効率的に実施する必要があるからです。
また、同時に、適切な報告体制を確立することによって、経営陣への報告漏れや遅延防止が可能となるからです。

また、不祥事などへの対応は、コンプライアンス上単なる法令に沿った対応だけでは済まないケースが多いため、法務部門などの単独での対応ではなく、組織として機動的な対応が出来るような体制及び処理プロセスの確立が重要です。

更に、不祥事の早期発見だけでなく、再発防止のためにもモニタリングは重要な役割を担っています。よく、テレビや新聞などのニュースで、不祥事を起した企業のトップが、謝罪会見の中で「再発防止に全力を尽くします」という言葉を耳にすることがあるでしょう。
これを実践するには、モニタリングの体制と再発防止体制、つまり処理プロセスの確立が欠かせないわけです。

内部通報制度

モニタリングの中で、非常に重要なものに内部通報制度があります。

不祥事などの早期発見及び対応により、ことが大きくなる前に解決したり、外部に漏れるリスクを低減する働きがあります。

不祥事が一旦外部に漏洩すると、企業に与える損害は計り知れないものがありますので、単なる見かけだけの体制つくりではなく、真に機能する体制の整備が望まれます。
そのためには、前述したように、組織内部に受付窓口を設けた方がいいのか、外部の専門機関を利用した方がよりいいのか、よく調査して決定しなければなりません。

また、電話、メール、FAXなど、どの伝達手段を使うのか、また、匿名を受け付けるのか通報者の保護をどうするか、といった基本的な方針も合わせて決めておく必要があります。

更には、不祥事を起した当事者に対する制裁規定も非常に重要です。

また、その手続には、警察や関係省庁への届出なども含まれますので、単に内部だけで処理すれば済む問題ではありません。よく内部だけでもみ消して、関係省庁への報告を怠ったばかりに、経営トップが責任をとることにいたるケースが見られますので、制裁規定の明確化が必要です。

内部監査

コンプライアンス統括部門があり、更に内部監査部門を設けるというのは過剰ではないかと思われがちですが、コンプライアンス統括部門やコンプライアンス・オフィサーが方針通りに業務を行っているかをチェックしたり、内部統制システムの有効性や効率性を検討・評価したり、具体的な改善提案を行う部署も必要です。
これが、内部監査部門となります。

コンプライアンス統括部門が動的モニタリングとすれば、内部感監査が静的モニタリングを担う部門ということがいえるでしょう。


以上のように、コンプライアンス組織の構築から内部監査部門の整備にいたる一連の作業を実施することにより、コンプライアンス経営を実践する基本的な体制構築が可能となるわけです。