遺言と相続

遺言書と相続の関係

何故、公正証書遺言をおすすめするのか?

年齢を重ねるにつれ、やはり気になるのが、遺産相続の問題ですね。

相続というと、すぐに「争続」というドラマに出てくるような文字を頭に浮かべる人が多いかもしれませんが、どこもかしこも、争いが起こるわけではありませんし、寧ろ相続のことすら話題に上らない間に時が過ぎてしまった、なんていう家庭の方が多いかもしれませんね。

遺言書があるのとないので一番違うのは、実は、相続手続きを迅速に行えるかどうかなんですが、ご存知でしたか?

遺言書中でも、特にお勧めしているのが、公正証書遺言です。

相続人が複数人いる場合、遺言書がなければ、遺産分割協議書を作成して、相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書と戸籍謄本を添付する必要があります。

遺産分割協議が紛糾してまとまらなければ、不動産や預貯金の名義変更すらできません。誰がどの財産を相続するか、どのくらいの割合で相続するのか全く分からない段階では無理なことはわかりますよね。

この段階では、全て相続人の共有財産になりますから、何をやるにしても全員の同意がないとできません。

仮に協議が完了して、いざ手続きを行う段階になっても、相当時間が経過しているはずですし、遺言書があれば、被相続人と相続人に関する書類と遺言書だけで手続きがすぐに行えたのに、本当に面倒ですし、時間ばかりが経過していきます。

遺言書によって、争いが起こることも当然ありますが、公正証書遺言があるだけで、相続手続きが迅速に行えるわけですし、遺留分(相続人が本来貰える相続分の半分の額)の請求もそれに合わせて、迅速に行えますから、現金がすぐに必要な場合などは助かります。

一方、遺言書がない場合、最も困ることの一つが、不動産等を担保にローンを組んでいる場合です。

そのローンの担保になっている不動産等が、共有になってしまえば、ローンを組んでいる人の持分が下がることになり、その結果、担保不足になりかねません。

いきなり、融資の額を削られたり、不足した担保分を補てんするなどできませんから、大変です。

そうならないためにも、担保設定している不動産があれば、被相続人に話をして、公正証書遺言を前もって作成してもらうことをおすすめします。

法的効力がなくても大切なことがある!

エンディングノートの活用法

遺言書は、法的効力があることはわかりますが、それだけで、相続手続きがすべて完了するわけではありません。

お金の問題以外にも、片付けなくていけないことがいろいろありますが、それこそエンディングノートの出番です。

エンディングノートは、遺言書とは違います。

エンディングノートには、法的拘束力がありませんから、作者本人がなくなった後に読むものというルールも当然ありません。

遺言者本人が亡くなった後始末は、確かに大変ですが、それよりも、認知症や傷害、老衰などにより介護が必要になり自分の意思を伝えることができなくなった場合の方がはるかに大変です。

私のお勧めするエンディングノートは、亡くなった後よりも、認知症や介護が必要になった時にどうして欲しいかをしっかり記載するものです。

例えば、以下のようなことを記載してはいかがでしょうか?

  1. 「胃ろう」などの延命治療をうけるかどうか
  2. 脳死後の臓器提供の同意の意思
  3. 介護が必要になった時の介護費用や身内の人に対する介護報酬について
  4. 会員登録をしている会の名簿一覧(URL、ログインID、パスワードを含む)
  5. それらの会への退会届と解約手続
  6. 仕事上の重要書類や書籍の処分について
  7. 友人、知人等からくるメールや手紙などの返信をどうするか
  8. PCや携帯電話の処分等

人ぞれぞれ生活している環境が異なりますので、ご自分の生活に合った内容を記載すればよいでしょう。

大切なことは、介護や看護している人が出来るだけ判断に困らないようにエンディングノートを活用するということです。

逆に、実現不可能なことや、介護や看護している人を惑わすようなことは控えなくてはいけません。

従って、エンディングノートをつけていることは、周囲の人に知ってもらうことが大切ですし、認知症などにより自分の意思を伝えられなくなったときは、中身を見るようにしっかり伝えておくことが大切です。

表紙にそのように書いておくのも手ですね。

被相続人の本心の伝え方

本人が亡くなった後、残された人達に自分の本当の気持ちを伝えることは非常に重要なことです。

エンディング・ノートにしろ、遺言書にしろ、本人の気持ちをつづった部分には法的拘束力はありません。しかしながら、例えば、遺言書に記された「付言」によって、相続争いを回避できた事例はたくさんあります。

子供達は、親の本当の気持ちを知っているようで実は知らない場合が多いと思いますので、遺言書やエンディング・ノートに記された本心を読み聞かされて、いかに誤解していたか、分かっていなかったか、本人が亡くなって初めて知ることになります。

付言事項がなかったら?

ところが、もし、遺言書の付言事項やエンディングノートの日記に何も記載がなかったらどうでしょう。

単純に実務的なことしか記載していなければ、不公平感ばかりが募って、兄弟、親子の仲が険悪になる場合が十分考えられます。

事前に遺産分割について協議して納得していたとしても、予定通りに相続が開始されるかどうかは、誰もわかりません。協議から相続開始までの期間が長くなればなるほど、相続人の生活環境も変わっていきますので、要求する内容も当然変わってしかるべきだと思われます。

そこで威力を発揮するのが、エンディング・ノートの日記の部分であり、遺言書の付言です。何故、こういう遺産分割にしたのか、被相続人の本心を知れば、意外と納得する人も多いものです。

中には、全く納得しないで、ものすごくお金に執着する人がいます。そういう場合であっても、遺産分割には、寄与分というものが考慮されますので、仮に裁判になったとしても、裁判を有利にすすめる事が可能になる場合があります。

また、相続で争いが起きるのは、財産が寧ろ少ない場合が多いのです。相続する財産が多い場合、多少の多寡があっても、全体の額が大きいので不平は少ないものです。

問題は、少ない場合です。重箱の隅をつつくような細かな不平をいう人がいるものです。
裁判に訴えるほどの額ではないのに、敢えて提訴したりしますから、非常に厄介です。

こういう場合でも、遺言書があり、被相続人が何故こういう遺産分割にしたかを知れば、以外に黙るものです。
故に、遺言書を書いておくにこしたことはないのです。

但し、相続人の悪口を書くことだけはご法度です。

悪口を書かれた相続人は、怒って遺言書そのものの無効若しくは不存在の訴えを起こすかもしれません。争続の火種を生むために遺言書を書くのではないということを肝に銘じて、絶対に悪いことは書かないように気をつけて下さい。

夫婦の一方が外国人だったら

国際結婚されたご夫婦が、還暦を迎える頃になると気になることの一つが、日本人夫婦同様、遺言・相続です。

外国人の配偶者で、扶養されている場合は特に、一人取り残されたら日本で生活していけるのかどうか、ものすごく不安だという言葉を耳にします。

そこで、まだ元気なうちに遺言書を書いて貰い、亡くなったときには財産が残された配偶者とその子供たちにきちんと残るようにしておけばいいのではないかと考えます。

ところが、いざ遺言書の文案が出来上がって、遺言者から内容の説明を受けると、何故そういう内容にしたのか外国人の配偶者の方は理解できなくて、喧嘩になってしまうことがあります。

外国人の配偶者にとって不利になるようなことは一切書かれていないのですが、理解できないのですからしかたがありません。

一方、遺言者においては、本来、遺言書は、相続人に見せるものでなく、本人が密かに作成してしかるべきものですが、やはり外国から自分を頼って慣れない日本で生活しているわけですから、内容を事前に知らせて、納得してもらいたいと考えるようです。

しかしながら、遺言者が外国人の配偶者に対して法的な内容を説明しても、なかなか正確に伝えるのは難しく、また、どこまで信用してもらえるのか、という疑問も残ります。

そこで、当事務所では、このように遺言者と推定相続人との間で誤解が生じた場合、英文・和文での説明資料の作成及び説明を遺言者に代わって行うサービスを提供しています。

当事務所の特徴

上記のような理由により、ほとんどの場合、遺産の多寡に拘らず、遺言書の作成をお勧めします。特に、自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言をお勧めしています。

遺言書に記載する内容については、遺産に関する調査、相続人に関する調査はもちろんのこと、遺言者の意向を細かくお聴きして、そのお気持ちに沿った文章をお作りするように心がけております。

また、遺産分割については、法定相続分を考慮しながら、出来る限り争いを未然に防ぐ方向で調整するよう努力しています。