成年後見制度の概要
成年後見という制度は、2000年から始まったのですが、ご存知でしたか?
ちょうど介護制度が始まった年に、ほぼ同時にスタートした制度ですが、介護制度は知っているけど、成年後見制度についてはよくわからないという人がほとんどです。
介護制度というのは、介護認定を受けた人が有料の介護サービスを受ける場合、例えば、デイサービスや通所リハビリの利用、介護施設等への入居等を行う場合、本人とその施設と契約して初めて利用できるようになる制度です。
ところが、この制度には大きな問題が一つありました。
それは、脳の障害や認知症等により判断力がない人は、契約能力がありませんので、単独では契約できません。仮に家族であっても、本人の法的な代理人としての資格はありませんので、このままでは、せっかく新しく介護制度を作ったのに利用できません。
そこで契約能力のない人に代わって契約を締結できる人を公的に認める制度として成年後見制度が始まったわけです。もちろん、本人の代理人として契約を締結するだけでなく、本人が亡くなるまで面倒を見るということを前提に、年金の手続きから財産の管理まで行うことができる制度です。
但し、この制度にも大きな問題があります。
1つは、後見人を誰にするかということです。
後見人は、本来身近な親族が行うのが自然であり、本人としても安心できると思われますが、本人の財産目当てだけに後見人になる人も少なからず存在しているのも事実であり、むしろ第三者の方がしっかり後見業務をやれるのではないかと裁判所が判断して、近年親族を後見人候補者として申請しても認めてもらえないケースが増えています。
結果的に、全く会ったこともない人がいきなり後見人になるわけですから、本人だけでなく、その親族にも精神的な負担は大きいものがあります。相性の問題は、判断能力の有無にかかわらず存在しますので、相性が合わない人が後見人に選任されたら大変です。
そうなりたくないという人のために、成年後見制度には、任意後見をいう別の制度があります。
任意後見制度は、まだ判断能力があるうちに自分の後見人を選任しておき、いざ判断能力が衰えたら、その人に後見人として自分の代わりに役所の手続きや財産の管理を行ってもらう制度です。
亡くなるまで、だれの支援も受けることなく自立して生活できれば一番いいのですが、ほとんどの人は何らかの支援を必要としています。寿命が延びれば延びるほど、益々この傾向は強まるでしょうから、他人事ではなくもうすぐ自分もその仲間入りをするんだという気持ちで、真剣に考えていただきたいですね。
ここでは、いくつか、成年後見制度に関する基本的な質問にお答えしていますので、まずは、概要を理解するところから始めてください。
1 成年後見制度ってどんな制度?
成年後見制度というのは、高齢や認知症などで、判断力が衰えた人や足腰等身体が不自由になった人等を支援するために設けられた制度で、支援される人を成年被後見人等(以下、「本人」といいます)、支援する人を成年後見人等といいます。
この制度を利用すると、成年後見人等が本人の代わりに本人の財産管理を行ったり、役所や年金等の手続き、介護施設や病院等への入所・入院手続等を行ってくれますので、本人の家族が遠方にいても、身寄りがない場合でも安心です。
法律で定められた制度ですので、日本人は勿論のこと、日本に住所を有する外国人であっても安心して利用することができる制度です。
2 成年後見人等の主な仕事とは?
本人に代わって法律行為や身上監護、財産管理を行います。
法律行為とは、意思能力によって一定の法律効果を生じさせる行為で、その行為によって、本人及び相手方に義務と権利が生じたり、消滅したりすることをいいます。
身上監護とは、介護認定の手続きや、病院の入院手続や施設への入居手続き、役所への移転手続き等を本人に代わって行うことをいいます。
財産管理とは、預貯金の管理、保険金の申請、年金の手続き、有価証券等の管理、不動産や動産の売却、購入等、本人に代わって手続きを行ったり、財産の管理を行うことを指します。
3 成年後見制度は、判断力が衰えた人や身体が不自由な人以外は利用できないのですか?
そんなことはありません。
まず、成年後見制度は、以下のように「判断力があるか、ないか」という基準によって2種類に分かれます。
法定後見制度 ・・・ 判断力がない場合にのみ利用できる制度
任意後見制度 ・・・ 判断力がある場合にのみ利用できる制度
では、知的障害者や精神障害者、事故などで肢体不自由になった障害者はどちらを利用できるのかという問題があります。
問題は、社会人として一般的な判断力が備わっているかどうかが問題であり、法定後見制度を利用する場合、最終的には家庭裁判所が判断します。勿論、医師の診断が決め手になる可能性はありますが、医師の診断を待つまでもなく、決まってしまう可能性はあります。
一方、任意後見制度を利用する場合は、あくまでも契約能力があるかどうかであり、公正証書にする段階で最終的に決まります。つまり、公証人役場の公証人が本人に判断力があると判断すれば、任意後見制度を利用することができますし、判断力がないと判断すれば、法定後見制度を選択する以外にありません。
ここに大きな問題があります。
公証人全員が障害に対する知識を十分持ち合わせているかというと、そうではありません。例えば、脳性麻痺の人は、外観上肢体不自由であっても、知的レベルや判断力は健常者と全く同レベルの人も少なくありません。しかしながら、言葉を正確に発することができないため、公証人が理解できないという理由だけで判断力がないと判断されてしまう場合があります。
本人の意思をわかりやすく伝えることができる人が横にいればいいのですが、そうでなければ、意思疎通がうまくいかないために公正証書にすることができないということが起こるわけです。また、文字を入力することができない人もおりますので、この場合は、予め公証人にその旨を伝えておく必要があります。
4 では、どんな人が任意後見制度の利用を検討すればいいのですか?
①今はまだ元気ではあるが、高齢なので将来が不安な独居老人若しくは高齢夫婦
歳を取ってくると足腰が弱くなったり、自動車の免許を返上したりして、外出が若い時のように思うようにいかなくなります。
買い物などは、介護認定を受けて要介護の認定を受ければホームヘルパーに依頼したり、料理などは宅配サービスを利用するなどの手段がありますが、市役所や年金の手続き、銀行の入出金といった重要なことはヘルパーに頼むことはできませんし、頼んでも引き受けてもらえません。
また、本人が認知症になった場合は、本人が指示を出すこともできなくなりますので、本人のために財産の管理や役所の手続き、病気になったときの入院手続等を本人に代わって誰かにやってもらわないといけなくなります。
近所に本人の家族や兄弟といった親族が住んでいれば、何かと世話をしてくれる可能性はありますが、現在のように核家族化が進んだ日本では難しいのが現状です。
そこで、任意後見制度を利用することでこの問題を解決することができるわけです。
②判断能力のない障がいを持った子がいる親の場合
高齢となり、子の面倒をみることが難しくなることを想定して、親が委任者となって任意後見契約を受任者と締結します。この場合の受任者は、親族でも構いませんし、成年後見を専門にしている第三者でもかまいません。
この任意後見契約の中で、親に代わって子に生活費を給付する代理権を付与しておきます。また、この場合、親の判断能力があるうちに子を障がい者施設に入居させておきます。これによって、親が認知症を発症しても、施設への支払いが滞ることなく行えます。
また、子に関する法定後見開始申立を親の受任者が親の代わりに行えるように、委任契約の中で代理権を付与しておきます。これによって、子については、成年後見人等が財産管理、身上監護を行ってくれますので安心です。
③判断能力のある障がいを持った子がいる夫婦の場合
子が成年者で判断能力がある場合、子が任意後見契約を締結します。また、同時に身上監護や財産管理を行うことができる委任契約を同時に締結しておきます。
この委任契約及び任意後見契約の受任者は、親ともう一人信頼できる受任者を選任しておきます。これによって、親が認知症などによって子の面倒を見ることができなくなった場合、もう一人の受任者が子の財産管理だけでなく、身上監護も行うことができます。