遺言について

遺言の意義と性質

遺言の必要性

日本人の感覚では、遺言なんて縁起でもないとか、遺言は大金持ちや資産家のもので一般庶民には関係ないものと思われてきました。しかしながら、今日、財産関係が複雑化する中で、死後の財産承継をめぐる紛争の回避や、事業承継のための資産の保存などを目的に遺言の利用が増加してきています。

また、遺言によって自分の財産を自由に配分することは、財産を所有する者の権利であると考える人も増えてきています。そこで、遺言が必要なケースとして以下にいくつかご紹介します。

  • 子供のいない夫婦の場合 → 兄弟姉妹が第3順位相続人として出てくる。
  • 相続人がいない場合
  • 内縁の妻がいる場合
  • 事実上離婚している場合
  • 相続人同士が不仲の場合
  • 法定相続人でない者に財産を与えたい場合(遺贈、生前贈与)
  • 事業を特定の者に承継させたい場合

遺言の法的性質

(1)死後行為

遺言とは、遺言者が死後に効力を発生させることを目的とする法律行為、すなわち死後行為です。従って、遺言書作成から死亡までの間に、遺言者が財産を処分しても、受遺者が意見を述べることはできません。また、遺言は、遺言者本人の意思に基づいて行わなければならず、代理は認められません。

(2)単独行為

遺言は、相手方のない単独の法律行為です。遺言には、氏名が特定されているものが多いですが、それらの者は、遺言の目的であって、相手方ではありません。

(3)要式行為

遺言は遺言者の死後において効力を発生するものですから、遺言者の真意を確保し、遺言内容に関する紛争を回避するため、民法の定める一定の方式に従ってなされなければなりません。従って、方式に反する遺言は無効となります。

遺言能力

遺言能力とは、単独で遺言を行うことが出来る資格をいい、満15歳に達したものに付与されています。但し、遺言は法律行為ですので、満15歳以上のものであっても、遺言という法律行為の意味を理解する精神的能力、すなわち意思能力を欠く者は遺言をすることができず、又行っても無効となります。

これに対し、意思能力がある場合には、たとえ成年後見、保佐、補助などの審判を受けている者でも、単独で遺言することが出来ます。但し、成年後見人が一時的に事理弁識能力を回復したときに遺言をするには、医師2人以上の立会いが必要です。逆に、遺言を行った後に能力を喪失しても、遺言の効力には影響ありません。

遺言の方式

遺言は、遺言者の死亡後に効力が発生するものであることから、その真意を確保するために、要式行為とされています。ただ人が遺言をする状況はさまざまですので、事情に応じた複数の種類の遺言が認められており、通常の生活状態における普通様式と特殊な状況を考慮した特別方式があります。

遺言の種類

普通方式の遺言

普通方式遺言とは、死亡が危急に迫っているなど、特別の事情が存在しない通常の状態のもとで作成できる遺言のことをいい、以下の3種類の遺言があります。遺言者は、自らの希望に応じて、任意のいずれかの種類を選択することができます。

自筆証書遺言

以下に自筆証書遺言の簡単な例を挙げてお説明しましょう。

自筆証書遺言例


自筆証書遺言とは、遺言者自ら遺言所を自書して作成する遺言であり、作成が容易で、自分が黙していれば遺言内容の秘密を守ることも可能です。

但し、方式の要件について十分な知識を持たない場合には、方式違反を犯しやすく、また、遺言書の保管という面でも確実性に欠け、他者による偽造や変造も行われやすいという欠点もあります。

そこで、以下に具体的な自筆証書遺言作成における要件をまとめてみました。

(ア)遺言の全文を自書すること

  • ビデオテープや録音テープ、電磁的記録媒体に収録されたものなどは認められません。
  • 自書であれば、用語に制限はなく、外国語を用いたり、速記文字でもかまいません。
  • カーボン紙を用いた複写の方法で記述したものも自書と認められています。

(イ)日付を自書すること

  • 遺言能力の判断や複数遺言の優先性の判断などのため、遺言書が作成された時期は、遺言の効力に重大な意味を持ちますので、日付も自書を持って記載することが要求されています。

(ウ)氏名を自書すること

  • 氏と名が記載されていることが原則ですが、遺言者を特定することが出来れば、いずれかのみの記載でも、また、雅号や通称であってもかまわないとされています。

(エ)押印をすること

  • 氏名の自書の上に押印を要求する理由は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性および真意を確保するとともに、我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあります。

公正証書遺言

公正証書遺言は、遺言内容を遺言者が公証人に口述し、公証人によって書面の作成をしてもらう遺言です。

このメリットは、方式違反の生ずる可能性が少なく、また遺言書の正本を確保することができ、偽造や変造を防ぐことができます。

従って、遺言書の検認も必要とされません。一方、費用が掛かる上、公証人のほか証人までが遺言作成にかかわりますので、遺言内容の秘密性という点においては欠けるところがあります。

公正証書遺言の要件は以下の通りです。

(ア)2人以上の証人が立ち会うこと

(イ)遺言者が遺言内容を公証人に口述すること

(ウ)公証人が口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、又は閲覧させること

(エ)遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと

(オ)公証人が、遺言証書は(ア)ないし(ウ)に掲げる方式に従って作成したものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者がその遺言書を封じ、封じられたままで公証人により公証される方式の遺言です。遺言者自ら自書して遺言書を作成する場合には、遺言の内容を秘密にしたまま、遺言書の存在を確保することが出来る点で利便性があります。

秘密証書遺言の要件は以下の通りです。

(ア)遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと

(イ)遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること

(ウ)遺言者が、公証人1人および2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述すること

(エ)公証人が、その証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者および証人とともにこれに署名し、印を押すこと

特別方式の遺言

遺言者が特殊な状況に置かれているとき、それを考慮した方式によって作成される遺言です。

従って、特殊事情がなくなったときにはその効力を認める基盤もなくなりますので、特別方式の遺言は、遺言者が普通方式による遺言をすることができるようになった時から6ヶ月生存するときには、その効力がなくなります。

特別方式の遺言には、特殊事情の内容に応じて、危急時遺言と隔絶地遺言があります。

危急時遺言

死亡の危険が危急に迫った状態にある場合に許される特別方式の遺言で、以下の2通りの方式があります。各危急時遺言は、要件を満たせば成立しますが、効力発生には、家庭裁判所による確認が必要となります。


(ア) 一般危急時遺言

臨終遺言とも呼ばれ、一般に死亡の危険が迫った場合に認められます。
その要件は、以下の通りです。

ⅰ.遺言者が、疾病その他の事情によって死亡の危急に迫っていること
ⅱ.証人3人以上の立会いがあること
ⅲ.遺言者が、証人一人に口述すること(通訳による申術が認められます)
ⅳ.口述を受けた者がこれを筆記し、遺言者および他の証人に読み聞かせこと(通訳によりつたえることが認められています)
ⅴ.各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、押印すること


(イ) 難船危急時遺言

船舶遭難の場合において、死亡の危険が迫った場合に認められます。
その要件は以下の通りです。

ⅰ.遺言者が、船舶遭難の場合において、船舶中にあって死亡の危急に迫っていること
ⅱ.証人2人以上の立会いのもとに、口頭で遺言すること(通訳によることが認められます)
ⅲ.証人が遺言の趣旨を筆記して、これに署名し、押印すること(証人の中に、署名又は押印することができないものがあるときは、証人はその理由を付記すること)

隔絶地遺言

一般社会との交通が、法律上または事実上遮断されていて、証人や立会人などを得ることが難しい場所にある場合に認められる遺言で、以下の2通りの方式があります。


(ア) 一般隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言)

伝染病に罹患したために隔離され交通を絶たれた場合などに認められる遺言です。
その要件は、以下の通りです。

ⅰ.遺言者が、伝染病のため行政処分によって交通を絶たれた場所にある、又は刑務所への収容など、外部の一般社会との自由な交通が遮断されている場所にあること
ⅱ.警察官1人および証人1人以上の立会いがあること
ⅲ.遺言書は、遺言者が自筆する必要はありませんが、遺言者、筆者、立会人、証人は、各自遺言書に署名し、押印すること


(イ) 船舶隔絶地遺言(在船者遺言)

船舶中に在る者に認められる遺言であり、在船者遺言とも言われます。
その要件は、以下の通りです。

ⅰ.遺言者が、船舶中にあること
ⅱ.船長または事務員1人および証人2人以上の立会いがあること
ⅲ.遺言書は、遺言者が自筆する必要はありませんが、遺言者、筆者、立会人、証人は、各自遺言書に署名し、押印すること。

遺言の効力


遺言の成立と効力発生時期

遺言は、遺言者が方式に従って遺言を行ったときに成立し、その効力は、遺言者の死亡の時から発生します。

従って、遺言者が生存している限り、受遺者は何らの権利も取得しないし、遺言無効の訴えを起こすことも認められません。

また、遺言は法律行為ですから、条件および期限を付けることができます。

遺言の撤回

遺言の撤回とは、遺言者が遺言の効力発生前に、将来に向かって遺言の効力を失わしめる行為のことをいいます。

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、遺言の全部または一部を自由に撤回することが可能です。

遺言の撤回は、撤回を明示する遺言がなくても、一定の場合には、遺言は撤回されたものとみなされます。これを法定撤回といい、抵触行為による撤回と破棄による撤回があります。

抵触行為による撤回

遺言者が遺言をした後に、その遺言を失効させなければ実現できない程度に矛盾した内容の行為をすることです。例えば、前の遺言で甲不動産をAに遺贈するとしておきながら、後の遺言でBに遺贈するとしたような場合、抵触する部分についてのみ、前の遺言が無効となります。

破棄による撤回

遺言者が、故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分について撤回したものとみなされます。遺言所の破り捨てや、焼却、遺言書の文面を判読不能なほどに塗りつぶしたりすることがこれにあたります。

天災など、不可抗力による消滅は、破棄には当たりません。また、本人の過失や遺言者以外の者による破棄は、撤回とはみなされませんが、完全に消滅してしまえば遺言の内容は分からないため、結果的に遺言は失効します。

撤回された遺言を撤回する意思表示をしても、その効力は復活しません。復活させたい場合は、復活させたい内容の遺言を作成して、後の遺言を撤回させる必要があります。又、詐欺や脅迫により先の遺言が取り消された場合には、その撤回は無効となり、先の遺言が復活します。

遺言の無効・取消し

遺言は、以下の場合に無効となります。但し、詐欺・脅迫による遺言は取り消すことができます。

(1)方式に違反しているとき

(2)遺言時に、遺言者に遺言能力がないとき

(3)遺言事項外の遺言であるとき

(4)被後見人が、後見の計算の終了前に。後見人またはその配偶者もしくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたとき

(5)共同遺言

(6)法律行為一般の無効原因が存在するとき