遺言の執行と遺産分割

遺産を分割する方法には、被相続人が作成した遺言書をもとに行う指定分割と相続人全員で協議して決定する協議分割がありますが、同じ遺産分割とはいえ、その手続きには非常に大きな違いがあります。

ここでは、各々の具体的な手続きについて分かりやすく説明します。

遺産分割

相続が開始されたからといって、相続人は個々の財産を自由に処分できるわけではありません。

相続人が複数であるときは、相続財産は相続人全員の共有状態に置かれます。この相続によって生じた共有関係は、遺産分割手続を経て、各相続人に分割され、各相続人が個々に各相続財産を取得することになります。

尚、遺産の分割には、以下の3つの態様があります。

  • 指定分割
  • 協議分割
  • 審判分割

1.遺産分割の態様

指定分割

被相続人が遺言で遺産分割方法を指定することをいいます。遺産分割方法の指定遺言がなされると、遺産分割手続を経ることなく、被相続人から相続人へと目的物の権利が移転することになります。但し、共同相続人全員の同意があれば、指定と異なる分割をすることが可能です。

また、遺産の一部についてなす遺産分割の場合、残部については、他の遺産分割方法によります。

遺産分割方法の指定を第三者に委託することも可能です。但し、第三者に相続人が指定されたときは、自己の利益になるような遺産分割をするといった利益相反行為になる場合は、特別代理人の選任を要します。

協議分割

共同相続人全員が、当事者として遺産分割の協議を行うことであり、相続人全員の意思の合致が必要です。多数決では協議が成立しません。これは、遺言による遺産分割の指定がないときに行う分割方法で、協議成立のためには、以下のような点に注意が必要です。

協議参加者

(ア)身分関係
嫡出子、非嫡出子、男女、実子、養子の区別なく、法律上相続人となりうる身分関係があれば、協議に加えなければなりません。例えば、被相続人の実子が養子となって他人の子として戸籍に記載されていたとしても、この者を含めないでした遺産分割協議は無効となります。

(イ)胎児
胎児は、相続人となりますので、胎児が生まれてくる前にその者を除いて行われた遺産分割協議は、無効となります。従って、遺産分割協議は、胎児が生まれるまで待つのが一般的なようです。

では、生まれるというのはどういう状態をいうのか・・・

民法では、原則として「子供が母体から分離した段階で生きていた」ならば、生きて生まれたものと考えるべきであるとする「全部露出説」が通説になっています。

一方、刑法では、子供が母体から一部でも露出したら、生まれたものとみなされます。これは、一部でも露出すれば、母体に影響を与えずに、直接露出部分に打撃を与えて殺害することができるという観点から判例にもなっています。

民法と刑法で解釈が違うということに注意してください。

(ウ)制限行為能力者

  • 未成年者:親権者又は後見人が協議に参加し、又はその同意を得て協議しなければなりません。
  • 成年被後見人:成年後見人が代理して協議に加わる必要があります。被後見人が協議に応じても、後で取り消すことができます。
  • 被保佐人:保佐人の同意を得て協議に加わることが可能です。


遺産分割の対象

財産の範囲、分割の対象範囲について、どこまで遺産に含めるか当事者で合意することができます。審判の対象とならない財産でも遺産分割協議の対象に含めることが可能です。

以下、権利や義務の性質上特別の考慮を要するものを例に挙げて説明します。

(ア)債権
分割自体は自由に行うことが可能ですが、債務者に対する通知又は債務者の承諾が必要です。

(イ)債務
相続開始時に存在した被相続人の可分債務は、相続開始と同時に法定相続分に従って分割されるため、遺産分割協議の対象とはなりません。

相続分指定がなされているときは、指定された相続分の割合に従って分割されますが、債権者には対抗できません。
不可分債権は、同様の割合によって負担します。

(ウ)農地
農地も遺産分割の対象ですが、相続による農地の移転や遺産分割による農地所有権による移転には知事許可は不要ですので、農業従事者でない相続人も農地を取得することが可能です。

しかしながら、農業経営が相続によって零細化することは好ましくないとする農業基本法の思想に基づき、農地を含む農業資産を農業後継者の単独所有とするケースが多いようです。但し、大都市近郊では、将来宅地化する可能性が高いので、他の相続人が現物分割を主張するケースが多いようです。

(エ)葬祭費
相続開始後の債務であるので、遺産分割の対象とはなりません。葬祭費をだれが負担するかは親族間の合意や慣習などによって決することになります。一般に喪主が負担するケースが多いようです。

(オ)遺産の管理費用
管理費用は、相続財産の負担となるので遺産分割の対象となるという裁判例や学説と、相続開始後に生じた費用であるので遺産分割の対象とはならないという裁判例や実務の扱いが存在します。後者の場合、管理費用は法定相続分に従って分割債務となるのが通例のようです。

分割方法

遺産は、全員一致の協議によれば、どのように行われても自由ですが、ここにいくつかのパターンを示しておきます。どれか一つというのではなく、組み合わせて使用するケースが多いようです。

(ア)現物分割
土地、建物は配偶者に、工場は長男に、預貯金は長女にといった具合に分割するものですが、実際には、これだけで公平な分割を達成することは難しいでしょう。

(イ)代償分割
 一人若しくは複数の共同相続人にその者の相続分を超える遺産を現物で取得させ、代わりに、相続分に満たない相続人の債務を肩代わりさせる分割方法です。

(ウ)換価分割
遺産を処分して、その対価を相続人で分配する分割方法です。

(エ)共有による方法
農業や商業などの家業を共同で受け継ぎ、その経営資産を共有とする方法です。

審判分割

遺産分割の協議が整わないか、協議することができないときは、相続人は家庭裁判所に遺産分割の調停又は審判を申し立てることができます。これを審判分割と言います。

審判には、相続人全員が当事者となる必要があり、相続人が行方不明や生死不明の場合は、不在者の財産の管理人が法定代理人として加わることになります。

2.分割の禁止

相続人は、分割の禁止がない限り、いつでも自由に分割を請求することができます。
この分割の禁止とは、以下の場合を指します。

遺言による分割禁止

被相続人は、相続開始のときから5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができます。

協議による分割禁止

5年の範囲内であれば、共同相続人の合意によって、分割を禁止することができます。

審判による分割禁止

家庭裁判所は、「特別の事由があるときは、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができます。


遺言の執行

被相続人が遺言書を残して亡くなった場合、その死後に、遺言書に記載された内容を具体的に実現する手続を「遺言の執行」といいます。

どんなにりっぱな遺言書を作成しても、遺言書の通り忠実に執行してもらえなければ意味がありませんので、一般的に遺言書の中に最も信頼に足る人を遺言執行者に指定します。

ところで、遺言といっても公正証書遺言と自筆証書遺言では、遺言執行においても大きな違いがありますが、まず、以降に自筆証書遺言を作成したときの遺言執行の具体的な手続きについて説明します。

1.遺言の検認と開封

検認

遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出してその検認を請求しけなければなりません。保管者がいない場合、相続人が遺言書を発見した後遅滞なく請求するものとされています。但し、公正証書は除かれます。

検認は家庭裁判所の審判によって行われ、家庭裁判所は、遺言の方式に関する一切の事実を調査し、遺言検認調書を作成します。

従って、遺言者に関するすべての戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍のみならず、推定相続人全員の戸籍謄本を揃えて家庭裁判所に提出する必要があります。

つまり、遺言者を配偶者のみと指定した場合であっても、被相続人の親、子供が存在していない場合、相続人となる可能性のある被相続人の兄弟姉妹全員(兄弟が既に死亡している場合には、その子供達)の戸籍謄本を提出する必要があります。

つまり、被相続人の兄弟が多い場合等は、検認の準備をするだけで数か月を要することも珍しくありません。検認作業に時間がかかるのは、その準備に時間がかかると考えてもいいでしょう。

しかしながら、検認は、遺言書の現状の検証手続あるいは証拠保全手続にすぎず、遺言の内容を審査して遺言の有効、無効を決する手続ではありませんから、検認を受けずに遺言が執行されても、その遺言が無効になるものではありません。

開封

封印されている遺言書を開くことを開封と言います。遺言者の真意を確保するために、封印のある遺言書は、家庭裁判所において、相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができません。

検証を要する遺言書を家庭裁判所に提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所以外で遺言書を開封した者は、5万円以下の過料に処されます。但し、違反があったからといって、遺言書がただちに無効になるというものではありません。

2.遺言執行者

遺言執行者の意義と資格

遺言者の指定又は家庭裁判所の選任により、遺言執行の職に就いた者を遺言執行者といい、自然人のみならず法人も遺言執行者になることが可能です。

未成年者および破産者は欠格者とされていますが、未成年者でも婚姻して青年擬制された場合には、遺言執行者となることができると解されています。

遺言執行者の指定と選任

遺言者は、遺言で、1人又は複数人の遺言執行者を指定することができ、又その指定を第三者に委託することもできます。

遺言執行者の指定又は指定の委託がないとき、あるいは指定された遺言執行者が就職を辞退したときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求に基づき、遺言執行者となる者の意見を聴取した上、審判により遺言執行者を選任することができます。

遺言執行者の任務の執行

遺言執行者が就職を承諾したときには、ただちにその任務を行わなければならないが、その職に就くかどうかは遺言執行者として指定あるいは選任されたものの自由です。

就職の承諾がないときは、相続人その他利害関係人は、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを解答すべき旨の催告をすることができます。その期間内に遺言執行者が解答しない場合には、承諾したものとみなされます。

遺言執行者の任務と権限

財産目録の作成

遺言執行者は、就職後、遅滞なく、相続財産の目録を調製して、これを相続人に交付しなければなりません。相続人の請求があるときは、その立会いをもって財産目録を調製し、または公証人に調製させなければなりません。

遺言執行に必要な一切の行為

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。従って、遺言執行者が置かれると、相続人は相続財産の管理処分権を失い、遺言執行を妨げる行為をすることができません。

ここでいう「一切の行為」には、認知、遺贈、訴訟における当事者適格等が含まれます。

(ア)認知 
遺言による認知がある場合には、遺言執行者は、その就職後10日以内に届出をしなければなりません。

(イ)遺贈 
特定遺贈の場合、所有権自体は遺言が効力を生ずると同時に移転しますが、不動産の所有権移転登記については、遺言執行者と受遺者が共同で申請を行います。

(ウ)当事者適格
遺言執行に関るすべての訴訟について、遺言施行者は、遺産に関する管理処分権を有するものとして、自己の名で原告となり、被告となります。

遺言執行者の地位

法的には、遺言執行者は、相続人の代理人とみなされます。
また、遺言執行者と相続人との関係は、委任の規定が準用されます。

任務の終了

遺言執行者の職務は、以下の場合に終了します。

(ア)遺言の執行が終了したとき

(イ)遺言執行者が死亡したとき

(ウ)遺言執行者が破産したとき

(エ)遺言執行者が解任されたとき

  • 遺言執行者が任務を怠ったとき、その他正当な事由があるときは、利害関係者の請求により、家庭裁判所は審判により遺言執行者を解任することができます。
  • 明文化されていませんが、遺言執行者が、成年後見、保佐、補助の開始の審判を受けたときも解任になると解されています。

(オ)遺言執行者が辞任したとき

  • 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、辞任することができます。

遺言執行の費用

遺言書検認の費用や相続財産の管理、更に遺言執行者の報酬など、遺言執行に関する費用は、相続財産の負担となります。但し、執行費用の支出によって相続人の遺留分を害することはできません。