企業・営業の買収・合併

日本語よりも英語の「M&A」の方が馴染みが深いかもしれませんね。

ハゲタカなどと呼ばれる敵対的買収から相思相愛で対等合併に踏み切る企業、事業部の一部を譲渡する場合もあれば、近年のように後継者不足で経営者の交替が行われるケース等さまざまです。

M&Aは、オープンにする場合もありますが、比較的秘密裏にことを運んで、基本合意した後、メディアに発表し、その後、独占禁止法に触れないかどうかといった法的な手続きに入るケースが多いのが実情です。

また、どういう内容の協議が行われたのか外部の者は知る由もありませんし、M&Aが完了するまでは、詳細が明らかにされることはないでしょう。

従って、秘密保持契約は欠かせません。

秘密保持契約といっても、その目的によって内容は大きく異なりますので、その目的に沿ったものにしなければなりません。

更に、契約途中に、これまでの交渉を総括し、今後両者の目標を再確認する意味で、基本合意書を締結する場合があります。

但し、創業間もない赤字のベンチャー企業の譲渡等では、株式といっても紙屑同然の場合が多いので、株式譲渡契約書のみで済ませるケースも少なくありません。

それは、ケースバイケースですが、M&Aに必要な典型的な契約関係は以下の通りです。

  • 秘密保持契約
  • 基本合意書
  • 事業譲渡契約
  • 株式譲渡契約
  • 合併契約
  • 株式分割契約
  • 株主間契約


典型的な契約の流れ

以下に、M&Aにおける典型的な契約の流れを示します。


 1.秘密保持契約の締結 

 2.交渉開始 

 3.基本合意 

 4.デュー・デリジェンス 

 5.交渉再開 

 6.本契約 

 7.具体的な手続き 

非常に大雑把な流れですし、順番も多少前後することはあるでしょうが、いずれにしても、その流れに沿って必要な契約書を段階的に準備し、契約の締結を行っていく必要があります。


秘密保持契約

企業の吸収合併や事業譲渡にいては、交渉中にお互いの秘密情報が開示されますので、交渉の前に必ず秘密保持契約を締結する必要があります。

では、その契約書に記載する内容や項目は、一般的な共同開発や代理店契約などを行う場合に締結する契約書に記載された秘密保持契約条項と何が違うのでしょうか?

秘密保持契約の要点

秘密保持契約には、少なくとも以下のような事項の定めが必要です。

  • 秘密情報の定義及び範囲
  • 秘密保持契約の対象者(当事者)
  • 管理方法
  • 目的外及び第三者への開示の禁止
  • 開示禁止の例外
  • 存続期間
  • 損害賠償
  • 秘密情報の返却及び破棄

他の一般的な秘密保持契約と定めるべき事項には、大きな相違はありませんが、秘密情報の定義及び当事者が契約内容によって異なります。

契約の当事者は、一般的には合併したり、事業を譲渡する企業になりますが、株式譲渡による場合には、対象となる会社の株主になりますので、契約の当事者に株主が名を連ねることになります。

秘密情報の定義及び範囲に関しては、契約当事者である企業の従業員はもとより、その子会社や取引先等の情報を含む非常に広範囲なものとなります。

また、秘密情報に当たる範囲が非常に広く特定するのが難しいという事情もありますので、逆に、秘密情報に該当しない情報が何かを契約書に明記する方法をとることも可能です。


基本合意書の要点

契約交渉の途中で締結するのが基本合意書となりますので、最終的な契約がまとまるまでは、このような契約は行わないという選択肢もあります。

合意書を作成する場合、その意義が問題となるわけですが、大企業においては、交渉範囲が多岐にわたり交渉期間も長引くことが考えられますので、ある程度時間が経過したところで、合意に達したものが何であるか、今後の交渉では何について協議を行うのか、また、独占的交渉権の有無や契約違反に対する損害賠償等について規定することになります。

目標を明確にするという意義もありますし、決定事項や交渉の進展状況の確認、契約解除条件などを明記して、法的な問題を事前にクリアするという意義もあります。


本契約

本契約の内容は、以下のように交渉の目的によって大きく異なります。

合併契約

合併には、一方の会社が存続し、もう一方の会社が消滅する吸収合併と合併するすべての会社が消滅し新しい会社が設立される新設合併があります。

新設合併よりも吸収合併の方が一般的に多く用いられておりますので、ここでは、吸収合併について記載します。

吸収合併とは、消滅会社のすべての権利義務を存続会社が承継します。従って、消滅会社に債務や訴訟案件などがあれば、それらもすべて存続会社が引き継ぐことになります。つまり、遺産相続における単純承認の場合と同じですので、消滅会社に大きな負債などがあれば、存続会社の屋台骨を脅かす可能性すらあります。

従って、いきなり吸収合併という選択肢はとり辛い面があるので、最初は事業譲渡や株式譲渡などにより、事業の一部のみ取得したり、経営権のみ取得するのが一般的です。

そうはいっても、別の会社ですので、合併契約書には、少なくとも法定された以下の契約内容を記載する必要があります。つまり、これらの事項が契約書に記載されてていない場合には、合併が無効となってしまう可能性もありますので、注意が必要です。

≪法定記載事項≫

  • 存続会社と消滅会社の商号・住所
  • 消滅会社の株主・社員に交付する株式や金銭等に関する事項
  • 消滅会社の新株予約権者(存在すれば)に交付する新株予約権や金銭などに関する事項
  • 効力発生日

その他、財産の承継や業務の運営、更には解除条件等を記載します。
合併契約書を作成し、記名押印した場合でも、実務はこれからですので、合併が完了するまでの間に契約書に記載された事項に違反するようなことがあれば、契約を解除し、白紙撤回できるようにしておく必要があります。

吸収分割契約

会社分割には、分割される事業を既存の会社に承継させる吸収分割と、新しく設立される会社に承継させる新設分割があります。

どちらにしても、切り出された事業の権利義務は、承継した会社が承継するという点では吸収合併と同じです。

吸収分割においても、吸収合併同様、法定された契約事項がありますので、契約書がそれらの一部を欠いていた場合、契約自体が無効となる場合がありますので、注意が必要です。

≪法定記載事項≫

  • 分割会社と承継会社の商号・住所
  • 承継会社が分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
  • 分割会社又は承継会社の株式を承継会社に承継させるときは、当該株式に関する事項
  • 承継会社が吸収分割に際して分割会社に対してその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる金銭等を交付するときは、当該金銭等に関する事項
  • 分割会社の新株予約権の新株予約権者に対して当該新株予約権に代わる承継株式会社の新株予約権を交付するときは、当該新株予約権の内容及び割当に関する事項
  • 効力発生日
  • 分割会社が効力発生日に、全部取得条項付種類株式の取得、剰余金の配当をするときは、その旨

その他の事項につきましては、合併契約に同じです。


事業譲渡契約

事業譲渡は、企業が有する事業に関連する有形・無形資産(ノウハウ、取引関係、ブランド、知的財産権等)を一体として譲渡するものであり、別名「営業譲渡」と呼ばれます。

特に、企業内に存在する事業の一部の事業のみを買収したい場合や債務等を承継しないで元の会社に残しておきたい場合に用います。遺産相続における限定承認の考え方に似ていますね。

事業譲渡契約書に記載すべき主な事項は、以下の通りです。

  • 承継する資産及びその範囲
  • 承継する契約関係
  • 労使関係
  • 譲渡代金(のれん代)
  • 譲渡日
  • 承継人が引き受ける負債
  • 譲渡人の担保責任
  • 損害賠償及び契約解除
  • 譲渡人の競業避止義務

事業譲渡の場合、契約締結後の資産の移転や登記、引渡しなどの手続きを個別に行う必要がありますし、契約関係についても、個別に対応する必要がありますので、実務上の処理が煩雑になりがちです。

また、行政上の許認可につきましては、譲渡できませんので、譲受人は新たに許認可を取得する必要があります。


株式譲渡契約

株式譲渡は、対象企業全体をそのまま買収したい場合に用います。

他のM&Aとは異なり、対象企業の株式が売買されるだけで、資産や権利関係にはなんら影響を及ぼしませんので、最も手続きが容易なM&Aと言えます。

但し、対象企業が抱えるリスクを丸ごと引き受けることになりますので、ある意味吸収合併と同じリスクを抱えることになります。

譲渡契約書に記載すべき事項は、以下の通りです。

  • 譲渡される株式の内容
  • 株式の譲渡日
  • 株主の担保責任
  • 譲渡代金
  • 役員人事
  • 譲渡人の競業避止義務
  • 損害賠償と契約解除

株式譲渡で一番問題になるのが譲渡代金です。
契約交渉から譲渡日の間でも対象会社の資産内容は刻々と変動しますので、どの段階で、どのような方法で対応するか当事者同士、合意する必要があります。


株主間契約(合弁会社設立)

2社又はそれ以上の複数の会社で、製品の共同開発や販売を行うために、株式会社や合同会社、有限責任事業組合等を設立する場合に交わされるのが、株主の間で交わされる株主間契約です。

株主間契約に最低限記載すべき事項は、以下の通りです。

  • 合弁会社設立の目的及び合弁会社の概要
  • 合弁会社に対する出資比率及び維持・変更
  • 株主の権利行使の方法
  • 合弁会社解消時の処理等

また、契約書作成と同時に合意文書として、定款案の作成及び添付が必要です。

具体的な事項については、定款案に記載しているので、契約書の中に新会社についての詳細説明は不要となります。


その他


印紙

  • 秘密保持契約書には、印紙の添付は不要です。
  • 基本合意書の印紙の貼付は、その内容によりますので、一概に言えません。
  • 合併契約書及び吸収分割契約書には、40,000円の印紙を添付する必要があります。
  • 事業譲渡契約書には、印紙の貼付が必要です(印紙税額一覧表の1号文書に該当)。
  • 株主間契約書には、印紙の添付は不要です。